「ART IN THE OFFICE」は、現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、当社を通じて新進気鋭の現代アートアーティストを支援する場づくりをしたいとの想いから、2008年より当社が社会貢献活動並びに社員啓発活動の一環として継続して実施しているプログラムです。2026年度は、121点の応募作品案の中から、藤本楓氏の「無駄話をしよう(会話の木)」が受賞作品として選出されました。
藤本氏の作品プランでは、「無駄話」の持つ価値に着目し、会話の中で話題が本題から派生していく様子を木の枝分かれになぞらえ、対話から生まれる広がりや会話の軌跡を可視化する作品を提案しました。滞在制作期間中は、社員との会話の中で話題が別の方向へと展開した回数に応じて、木が枝分かれしていく作品を制作する予定です。審査会では、会議室という空間の特性を生かし、社員との対話を創作の核に据えている点に加え、普段は見過ごされたり忘れられたりしがちなやり取りに光を当てる視点が高く評価されました。また、AI技術の急速な進化・浸透によって効率化が進む現代において、あえて「無駄」なものと捉えられやすい対話の価値を見つめ直し、人と人との関わりの豊かさを再認識させる提案であることも評価されました。
審査員一同(左より:松本、額賀氏、小堀氏、蔵屋氏、塩見氏)と選出された作品案

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- 参考作品:藤本楓「ここの森は」/2026年/紙、アクリル、水性インク
※無断転載・複製を禁じます。
※「ここの森は」は「ART IN THE OFFICE 2026」の受賞作品ではなく、藤本氏の過去作品を今回の作品案の参考として掲載するものです。受賞作品は2026年7月以降に制作予定です。
藤本氏作品コンセプトおよびコメント:
「無駄話をしよう(会話の木)」
ミーティングや会議の場では、しばしば本題から話が脱線し、逸れた話題の方が盛り上がることがあります。一見すると本筋とは関係ない無駄な時間に思えますが、私はこのような無駄話が新しい可能性を広げるヒントとなるのではないかと考えます。
木は育つ過程で何度も枝分かれしますが、分岐したどちらの枝も成長します。大昔に分岐した枝もこのあいだ分れた枝も、それぞれに葉や花が咲き、ときには実をつけます。これが人と人の対話に似ているような気がするのです。今この場では形にならなかった対話や不意に生まれた些細な会話・余談が人知れず枝を伸ばし、その先で想像していなかった可能性をもたらすかもしれません。そして「あの時こんな話しましたよね」などと話しながら、また新しい会話が生まれていきます。この会議室が、そのとき目の前にある議題の決定だけでなく、未来の話の種を生みだす場になることを願って、対話を元にした木を描きます。
藤本楓(ふじもとかえで)氏 プロフィール
2000年生まれ。2026年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。現在、同大学修士課程在籍。曖昧なもの、くだらないこと、無駄で余分なものがもたらす豊かさを感じながら、現代で淘汰され始めたそれらの「あってもなくてもいいもの」を日常の観察から見つけ出し、その中に潜む些細で見落としがちな魅力を作品にできないか模索している。主な展覧会に、「小さな島の停泊所」(haco -art brewing gallery、2024年)「あおちゃんとかえちゃん 青と緑の上」(ART・IN・GALLERY、2024年)「生命あるもの-プリントによる新たな可能性」(BAG-Brillia Art Gallery、2025年)がある。またメディア掲載歴に、集英社読書情報 広報誌『青春と読書』表紙絵掲載(2024年)、Webメディア『24M』12号、13号 サイト内グラフィック(2025年)など。敵でも味方でもない、冷たくも温かくもないけどどこか心地いい、台風の前に強く吹く生ぬるい風のようなものを作ることを理想とし、表現媒体を固定せず制作を行っている。

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- Photo by Hajime Kato
蔵屋 美香氏:横浜美術館館長
プレスルームにお邪魔して、ガラス張りの丸い部屋と大きな丸テーブルの生み出す効果に驚きました。安心して、平等に話をする空気が自ずと生まれるのです。ここに設置される作品は、この空気を一層活気づけるものでなくてはならないと実感しました。また、社員の方々と行うワークショップがいかに作品にとって本質的なものであるかも、わたしが審査をする上で大事なポイントでした。これから1年間、ここで行われる対話を本当に生き生きしたものとするのは、作品に対する社員の方々の愛着と誇りだからです。
藤本さんの提案は、社員の方々と話すこと自体が作品のかたちを生み出す、というコンセプトに魅力を感じました。特に、話が脱線する地点に注目したことは重要と感じます。コスパ、タイパばかりが求められるいま、脱線や思い込みが開く未知の可能性は、企業活動のみならず、人が生きる上で一層必要なものとなっています。たくさんの個性的な樹木がプレスルームの壁を覆い尽くす日を楽しみにしています。
小堀 宗以氏:遠州茶道宗家 若宗匠
現代アートの審査を務めるのは初めての経験でしたが、作品一つひとつに込められたアーティストの思いや、社会状況への深い洞察に触れ、まさに命を削るように創作に向き合う皆様の姿勢に、大変感銘を受けました。
遠州流茶道では、伝統の中に洗練された美しさを調和させる「綺麗さび」の心を大切にしております。今回は茶室ではなく『会議室という空間に、いかなる調和と余白、そして驚きをもたらすか』という視点を大切に審査に臨みました。効率が尊ばれるビジネスの現場において、一見その対極にあるように思えるアートこそが、場の空気を豊かにし、人の心を解きほぐす新たな調和と空間を生み出すのだと、改めて確信いたしました。
審査の過程では、社員の皆様がこのプログラムを心から楽しみ、オフィスに生まれる変化を心待ちにされていることを知り、大変嬉しく感じました。アーティストの皆様の素晴らしい創造性と、それを受け止める皆様の熱意。その両方に触れることができ、私自身にとっても非常に有意義で刺激的な時間を過ごさせていただきました。
![塩見有子氏(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長)](/jp/sustainability/art_in_the_office/2026artist/main/04/teaserItems1/0/binaryNodeName/2020AIO_Shiomi.png)
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- Photo by Yukio Koshima
塩見 有子氏:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト] ディレクター
今回、通常よりも多くの応募があったこともあり、作家としてのキャリアや年齢層そして活動拠点もさまざまに異なる方々からの応募がありました。そのためか、審査員の関心が集中するというよりはかなり分散し、何度も議論を重ねました。
藤本さんの作品プランは、社員の方々との会話をもとに作品が立ち上がっていくというものですが、会話の軌跡を可視化し、いつもなら不要と思われたり、忘れ去られてしまうものにも光を当てる試みです。そうした端に弾かれてしまうものを愛でるのは、アートにとって得意分野です。その瞬間は脇に置いてしまっても、また時間が経って引っ掛かりが戻ってくる刺激を社員の皆様も感じていただけると嬉しいです。
額賀 古太郎氏:KOTARO NUKAGA代表
今回、ART IN THE OFFICEの審査を通じて、まず応募者の多様さに強く印象を受けました。長年にわたり制作活動を続けてきた方から、人生経験を重ねた後に創作活動を始めた方まで、それぞれに固有の背景や視点を持った提案が寄せられ、非常に刺激的でスリリングな審査となりました。また、応募者にとって本プログラムが今後の活動やキャリアにも関わる重要な機会であることから、審査する側にとっても大きな責任を伴うものでした。その一方で、多様な表現や考え方に触れる、非常に充実した時間でもありました。
藤本さんの作品プランは、「無駄なこと」をテーマに据えながら、効率や合理性が重視され、AI技術によって“正解”から入ろうとする現代において、これからの社会に必要な視点を示している提案だと強く感じました
松本 大:マネックスグループ株式会社 会長
コンテンポラリー・アートとは何か?それはやはり、作家と鑑賞者が同時に生きているということが、決定的な要素だと私は思っています。アートとしてのビジュアルな美しさと、あの手この手で鑑賞者に絡んでくる作家の人間臭さと、或る意味相反するふたつのテーマが、ART IN THE OFFICE(AIO)の審査では私の心の中を行ったり来たりします。作家と鑑賞者の同時性のなかでのこの彷徨が、私にとってのAIO審査の楽しみでもあります。今年のAIOでも、本当に幅広い想い・考え・息づかいに触れました。その中で受賞作はやはり、同時に生きている人と人の接点に関わる作品でした。この作品の中に込められる人の営みが、当社オフィスに展開される日が待ち遠しいです。
これまでの「ART IN THE OFFICE」プログラムの作品および審査結果をご紹介しております。

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