「ART IN THE OFFICE」は、現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、当社を通じて新進気鋭の現代アートアーティストを支援する場づくりをしたいとの想いから、2008年より当社が社会貢献活動並びに社員啓発活動の一環として継続して実施しているプログラムです。2020年度は、86の応募作品案の中から、イカを素材に用いてイカを描くユニークさと、独自の生命観をオフィス内に展開させるスケール観が評価され、宮内裕賀氏の作品「イカリング」が受賞作品として選出されました。

 

審査員一同(上段左より:塩見氏、太田氏、結城氏、松本、成相氏)と選出された作品案
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審査員一同(上段左より:塩見氏、太田氏、結城氏、松本、成相氏)と選出された作品案

選出作品:「イカリング」

参考作品:「イカトカイ」/2019/キャンバス、ジェッソ、イカ墨、コウイカ甲、ケンサキイカ水晶体、アラビアゴム、油彩

撮影:木奥惠三

 

※無断転載・複製を禁じます。

※「イカトカイ」は「ART IN THE OFFICE 2020」の受賞作品ではなく、宮内氏の過去作品を今回の作品案の参考として掲載するものです。

受賞作品は2020年7月以降に制作予定です。

 

宮内氏作品コンセプトおよびコメント:

「イカリング」

私はイカを好きでイカの魅力を多くの人に伝えたくて描いてきましたが、今は描くことでイカに生かされていると感じています。イカ墨、イカ甲、イカの眼の水晶体などを画材に加工し、イカそのものでイカを描く作品をつくります。生き物の命をいただき芸術にいかします。死後は物質にもどり大きな生の中にかえって次の命になると考えます。陸に揚げられ1杯の鮮魚になる前、コンビニに置かれた1枚のスルメになる前は、海でうまれて1匹として生きていた実存のイカでした。自分たちの知覚できる世界だけでこの世ができているわけではなくて、死者もこれから生まれる生命も全てがつながっています。みんなそれを知っていて心に宿しているけど日々の生活に忙殺され、忘れているのではないかと思います。つながってきた命を実感し生きる自分を大切にすることで、世界を大切にできます。人工物に囲まれた安全な都会のオフィスの中でも生命について思い出していただけるように、いかなるときも全ての創造は地球の一部から生まれ、イカともつながっているという思いをもって制作します。

宮内裕賀氏

宮内 裕賀氏プロフィール

1985年、鹿児島県生まれ。タラデザイン専門学校卒業。

2004年頃に近所のおじさんが釣ってきたイカの美しさと美味しさに魅了され、以来ひたすらイカの絵を描き続けている。第22回岡本太郎現代芸術賞入選、TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 アートコンペ準グランプリ受賞。これまでの展示に「全国いか加工業協同組合創立50周年記念式典」ホテルオークラ東京(2015年、東京)、「国際頭足類諮問委員会函館会議」函館国際ホテル(2015年、北海道)、「Cephalopod Interface in Crete」ギリシャ・クレタ水族館(2017年、ギリシャ)、個展「イカスイム」レトロフトMuseo(2018年、鹿児島)、「Street Museum」東京ミッドタウン(2020年、東京)などがある。

宮内 裕賀氏 website:http://www.miyauchiyuka.com/

 

審査員コメント(50音順)

太田 雄貴氏:国際フェンシング連盟 副会長、公益社団法人日本フェンシング協会 会長、公益財団法人日本オリンピック委員 オリンピック・ムーブメント専門部会 副部長

人生で初めてのアートの審査員でしたので、緊張感もありつつ、楽しみながら取り組めました。コンセプトを拝見しながら、マネックスの社員のみなさんや、お客さんがどう感じるかを想像しながら審査させて頂きました。アートが持つ力や、心を豊かにす事を改めて感じた審査会でした。展示される作品が、沢山の人の心に残る事を願っております。

 

塩見有子氏(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長)
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撮影:
越間有紀子

塩見 有子氏:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長

この数ヶ月の間に、私たちの生活や社会、価値観の急激な変化が起こり、このAIO応募条件も変更を余儀なくされる中で、応募してくださったアーティストたちが最後までAIOにチャレンジしてくれたことに、まずは感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。そして今回もまた、激戦でした。特にワークショップは必須条件ではないものの、社員の参加の仕方にアイディアの広がりが見られ、単発で行って見たいと思わせるものもありました。宮内さんの提案は、彼女のなかのイカでなければならない必然と技術、そして気迫が混ぜ合わさり、圧倒的な表現として迫り来るものがありました。オフィス空間にイカ!考えるだけでも、その意外性に胸高鳴ります。

成相 肇氏:東京ステーションギャラリー学芸員

成相 肇氏:東京ステーションギャラリー 学芸員

証券会社のプレスルームという場所や、ワークショップを行うことも可能という条件を受けて、一般的な株式市場のイメージの安易な援用や、ワークショップ参加者の創造性任せであるようなプランが多く見受けられました。選考過程ではそのような踏み込みが浅いプランが斥けられ、作者独自の論理と方法が練り上げられたものが自ずと残り、結果として最も突飛な作品が選ばれることとなりました。イカでイカを描くという奇天烈な動機は賛否両論あったものの、すでに十年以上にわたるスタイルの継続性およびその経験と技術の蓄積、オフィスルームに埋もれないインパクトと端的かつ親近性のある自明さ、といった要素が総合的に評価されたものと考えています。

松本  大:マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO

13年目の「ART IN THE OFFICE」は、昨今の状況下、ZOOMを使った審査会となりました。しかしながら、審査の議論が活発に行われ、各審査員のお気に入りも揺れる、というAIO審査会のダイナミックさは、リモート審査会であっても例年と全く変わりありませんでした。そして今回は、AIO史上初の、極めてインパクトのある、”生きもの”系の作品となりました。デジタルなイメージの強い当社とその会議室に、どのようなアンバランスなバランスを創り出すのか、今から楽しみです!

結城 加代子氏:KAYOKOYUKI オーナーディレクター

結城 加代子氏:KAYOKOYUKI オーナーディレクター

コロナ禍で、オンラインも含めたギャラリーの在り方をはじめ、自身のアートとの関わり方についても模索する中、今回の熱意あるたくさんのアーティストの作品を、同じくオンラインで拝見し評価するというのは、なかなかに覚悟の要るスリリングな体験となりました。いくつかの応募作品からも同様の戸惑いが感じられ、改めて、「作品を作るとは何か。それを展示する、また鑑賞するとは?」ということを一緒に考える、貴重なアートの機会をいただいたと思っています。最終的には、コロナもマネックスさんも会議室も全く関係のない!(汗)イカが大好きな宮内さんに決定されたのですが、揺るぎない表現の根源を見せつけられ、一番大切な部分に立ち返ることが要求されているとも感じられました。