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「ART IN THE OFFICE」は、現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、当社を通じて現代アートの新進アーティストを支援する場づくりをしたいとの想いから、2008年より当社が社会貢献活動及び社員啓発活動の一環として継続して実施しているプログラムです。2024年度は、85の応募作品案の中から、植松美月氏の「雨だれにひそむ、」が受賞作品として選出されました。植松氏は、一日に彼女が行う呼吸のタイミングに合わせて、紫のインクが染み渡ったロール紙に、数を打刻するというプランを提案しました。誰しもに共通する「呼吸」とその数に着目した植松氏のアプローチは、一見、無機的にも見える数字の羅列でありながら人間の根源的な営みと時間を想起させます。また、インクの滲みという素材の特性を作品に活かしたプランは、一日の移り変わりを「そこにあること」の痕跡として美しく残しており、人の往来があるプレスルームにおいて、瞑想と交感が生まれる特別な空間になることが期待され、この度の受賞結果となりました。
作品: 植松美月/「雨だれにひそむ、」/2024/
コピー用紙、インク、釘/w 9121× h 1189(mm)、サイズ可変
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植松氏 コメント:
目の前の景色を"見る"とはどういうことなのか。
私は子どもの頃から父の影響で映画を見る機会が多く、いろいろな作品を見るたびに、主人公の目を通して自分を見ているような感覚を持ちました。映画に没入している間は、自分の呼吸がスクリーンの向こう側と行き来するように感じていたのです。その感覚を表現するために、自分が意識した呼吸の数を記録し、今生きている自分の時間を残したいと考えました。今回の作品は、紫のインクを浸透させたA0サイズのコピー用紙に、呼吸の数を打刻するというものです。この用紙1枚を1時間として数え、24枚(1日分)を並べて展示しています。息を吸って、吐く。これを一回として、ナンバリングスタンプでコピー用紙に記録していきます。睡眠や食事、滞在制作のための移動など、作品の前にいない私の呼吸は記録されていません。当初は滞在制作中も、社員の皆さんと交流した時間はナンバリングする回数が少なくなることを予想していました。実際には、私が想像するよりも、根を詰めて制作しているように見えたようで、社員の方は、少し、話しかけづらかったとのことです(笑)。今回の滞在制作を通して、そのような外からの視点が得られ、私の制作スタイルを再確認しました。反復行為は、自分の世界に没入する手段なのです。社員交流のワークショップでは、水を吹き付けたレジロール紙にインクを垂らし混色させ、紙が変容していくさまを、参加者のみなさんに体験していただきました。この経験が、日常的に見る何気ないモノやコトに対して「たったひとつの行為が、周囲に変化をもたらす可能性」への気づきになれば、みなさん自身が自分でも気づいていなかった新しい世界に没入する入り口に立っていると言えるのではないでしょうか。変容していくことを恐れず、受容していくことを楽しむ。そのことをワークショップに参加されたみなさんや、作品に関わってくださったみなさんと共有することができれば、嬉しいです。
植松氏 プロフィール
1995年兵庫県生まれ、東京都在住。2023年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻領域博士後期課程修了。主に、鉄や紙といった規格のある素材を中心に彫刻作品を制作する。近年は、作品制作過程において、反復行為が自身の呼吸と同期していくことに着目し、自身の存在を確かめるように作品に「痕跡と変容」を残す試みを行なっている。これまでの主な展覧会に、個展「月に浮かぶ、」(2024年、aaploit、神楽坂)、グループ展「P.O.N.D. Dialogue/あたらしい対話に、出会う。」(2023年、渋谷パルコ)などがある。テラスアート湘南アワード2023グランプリ受賞、野村美術賞受賞。2024年10月にartstudio NAZUKARI WAREHOUSE(千葉)にて個展を開催予定。