「ART IN THE OFFICE」は、現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、当社を通じて新進気鋭の現代アートアーティストを支援する場づくりをしたいとの想いから、2008年より当社が社会貢献活動並びに社員啓発活動の一環として継続して実施しているプログラムです。2021年度は、157の応募作品案の中から、閉塞感漂う世相に刺激を与え、コロナ禍という困難な時代において、柔軟な発想と独自の手法を用いて新たな表現に挑戦している点が高く評価され、中田有美氏の作品「Near and Far(IN THE OFFICE)」が受賞作品として選出されました。
※無断転載・複製を禁じます。
※「Near and Far #8」は「ART IN THE OFFICE 2021」の受賞作品ではなく、中田氏の過去作品を今回の作品案の参考として掲載するものです。
受賞作品は2021年7月以降に制作予定です。
中田氏作品コンセプトおよびコメント:
「Near and Far (IN THE OFFICE)」
マネックスという会社で働く方々をひとつの共同体人格と仮定し、顔のない肖像画として作品を制作します。社員の方々のプライベートな写真をお借りし、それぞれの心の中の記憶が混ざり合ったような光景を作りたいと思います。普段、私は「NEAR AND FAR」というシリーズ作品に取り組んでいます。一見何が描いてあるかわからないような油彩画と、その参照元となるコラージュプリントで構成されています。このシリーズは自画像の方法論を下敷きにしたもので、頭の中で日々薄れていく記憶の断片をかき集め、また壊し、見る角度を変え、別の新しい感覚を得たいという欲求に基づいています。制作の根幹の部分に社員の皆さんに関わっていただくことで、一体どんな光景が出来上がるのか、ドキドキしながらも楽しみにしています。
中田有美氏 プロフィール
1984年奈良県生まれ。2016年京都市立芸術大学美術研究科博士課程(油画)修了。近代までに描かれた自画像をリサーチし、描き手の目線からその成立構造を分析した博士論文「不可能な自画像――不可視のわたしと世界の不可視を見るための方法」で梅原猛賞を受賞。主な展覧会に、『NEW JAPANESE PAINTING』(2020年、MIKIKO SATO GALLERY、ハンブルグ)、『TO SELF BUILD』(2019年、BnA Alter Museum SCG、京都)、『絵画の現在地』(2018年、札幌大通地下ギャラリー500m美術館)、NEW INCUBATION 8 伊藤隆介×中田有美『ジオラマとパノラマ ――Diverting Realities』(2016年、京都芸術センター)などがある。京都市立芸術大学油画専攻非常勤講師。
中田 有美氏 website:https://nakatayumi.tumblr.com/
青木 彬氏:インディペンデント・キュレーター
コロナ禍という複雑な時代において、アーティストはどのような表現に挑んでいるのか、新鮮な気持ちで審査会に参加しました。応募にあたっては社員との交流という審査基準に対して、対面、リモートを駆使したコラージュという手法での応答に偏りがみえたように感じました。そうした中で、中田さんの作品は、この社会情勢を考慮しながらも、ご自身の作品のアプローチをAIOのプログラムに合わせた新しい表現に挑戦していました。これまでのAIO受賞作品とはまた違うアグレッシブな作品になることを期待しています。
荒木 夏実氏:東京藝術大学准教授、キュレーター
美術館やアート施設での展示がままならないこの状況下において、多くのアーティストが、作品をつくりたい、見せたいという気持ちが強くなっていることを、この審査会を通じて感じました。中田さんの作品は、図像と油彩を組み合わせたワイルドな手法がユニークで、空間構成的にも迫力があります。プランにあるワークショップでは、社員個々の物語を組み合わせてつなげ、最終的に展示作品になるという自身の新しい挑戦がみられこと、また社員の方々も楽しんで参加できる点として、評価しました。このプログラムをきっかけに、彼女の活動が多くの方の目に触れ、活躍の後押しになることを期待しています。
塩見 有子氏:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長
今年で14回目となるAIOですが、毎回必ず、驚きと発見があります。今回選ばれた作品は、躍動的でヴィヴィッドなイメージがあり、何かを打ち破る力も感じます。これまでも個性的で意外性のあるアート作品が選ばれてきましたが、金融のオフィスでそれが実現できることは、容易ではありません。さまざまな場面で難しさと不確かさを感じる時代において、多くのアーティストがAIOを通じて、表現の可能性に挑戦していることを大変嬉しく、心強く思います。社員との関わりについても、よく考えられていて、どのような作品になるのかとても楽しみにしています。
中野 信子氏:脳科学者、医学博士、認知科学者、東日本国際大学教授
コロナ禍でアートとは不要不急のものと捉えられることが多かったが、とはいえアートの売り上げは伸びているという声も聞こえます。過去最多の応募総数とのことでしたが、コロナ禍で、購買側と同様に、作家の創作意欲が刺激されたのかと感じたところが面白かったです。審査員のバックグラウンドも違う中で最終的にヴィヴィッドな作品が選ばれるという、時代の閉塞感を払拭したい集合的無意識の一端が見え隠れするかのような、非常に面白い選考プロセスを体験させていただきました。選出された作品が、一年間の展示を通して鑑賞者とどのような反応やケミストリーが起きるのか楽しみにしています。
松本 大:マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO
毎回AIOの審査会は、色々な「行ったり来たり」があります。前回はオンラインでの審査会に違和感を感じましたが、今回は審査員同士の意思形成もスムーズに行うことができました。人間は驚異的な速さで環境に慣れていくものなのでしょう。これまでの受賞作品はこちらから見入るような展示も多く見受けられましたが、今回選出されたプランは、作品の方から出て来るような勢いがあり、我々は今、刺激を求めているのだと感じました。今の私たちを取り巻く環境や世相を表した審査会になったと思います。