

マネックスグループは
社会を変えるリーダーになれる
創業から25年経っても、企業のコアは変わっていない
槇原 マネックスが創業したのは1999年で、私が社外取締役に就任したのが2006年。振り返ると、ボードメンバーとしてマネックスの歴史の大半に関わってきたことにあらためて驚いています。この間、前進も後退もありましたが、企業のコアとなる部分はまったく変わっていません。常に松本さんのヴィジョンのもとに動き、25年経っても相変わらず、スタートアップのようにアイデアをすぐ実行に移していく会社だと感じています。
久能 私は数年前、知人を通して松本さんと知り合い、個人的に交流を深めてきました。マネックスグループの経営に関わることになるとは思ってもみませんでしたが、社外取締役就任のオファーをいただき、25年前にあえてリスクを取ってネット証券を立ち上げたその先進性と、オープンマインドで「志のある品格」を併せ持つ松本さんの魅力に惹かれてお受けすることにしました。
槇原 「志のある品格」は良い表現ですね。松本さんは、ヴィジョン実現に向けて新しい発想をどんどん吸収して実行し、事業環境が変われば経営方針も大胆に変えていく。一方で、彼の周りの人間たちも率直に意見を発し、松本さんの考えに対して反論すべきことは反論する。常に議論しながら前に進んでいる会社であり、私自身も毎回、取締役会で何が議題として出てくるのか、いつもワクワクしています。
久能 私も槇原さんと同じように、取締役会に出席するのがとても楽しみです。いろんなバックグラウンドを持つ各界のトップの方々が、熱く真摯に議論されているのが本当に素晴らしい。おそらくそれは松本さんのマインドに起因するものでしょうが、それがシェアされて会社全体のマインドになっているように感じています。
清明さんのリーダーシップのもと「みんなのマネックス」へ
槇原 今回、CEOが松本さんから清明さんに交代しましたが、このサクセッションは昨日今日に決めたことではなく、数年前からプランニングしてきたこと。社外の人材も含めてCEO候補を検討し、議論を重ねた末にやはり清明さんが適任だと判断しました。久能さんは、清明さんに対してどんな印象をお持ちですか?
久能 先日、清明さんと対談する機会をいただいたのですが、とても「大物」だなと(笑)。まったく物怖じせず、ご自身の考えをしっかりとお持ちで、やるべきことを明確に理解していらっしゃる。
槇原 確かに、清明さんには周囲を惹きつける人格があり、十分な経営能力も備えていますが、やはりカリスマ創業者から会社を引き継ぐのは大変なこと。マネックスを「松本さんの会社」から「みんなの会社」に変えていくのは、非常に大きなチャレンジだと思います。清明さんはそれができる人であり、目の前の課題に一つ一つ対処し、そしてご自身のヴィジョンを打ち出して実行していけば、ステークホルダーはおのずと支持してくれると思います。私からのアドバイスとしては「やるべきことをやれば大丈夫だよ」と。
久能 松本さんと良い関係性を築かれているのも心強いですね。それぞれの強みがうまく作用しているように思います。松本さんは、道のないところをLeap(跳ぶ)することがお得意で、ご自身もそこに興味があるとおっしゃっている。松本さんが見つけ出した新天地を発展させ、規模を大きくしてアウトカムを出し、社会的なインパクトにつなげていくのは、きっと清明さんの方が向いている。先の株主総会では、清明さんのCEO就任に対してネガティブな意見も寄せられましたが、そんな状況にもまったく動じず、最後にご自身でステートメントを出されて「こんな人が日本にもいらっしゃるのか」と感心しました。あっという間に真のリーダーとなり、マネックスグループを強力に引っ張ってくれると期待しています。


金融が劇的に変化する中でいかにお客さまをサポートするか
久能 槇原さんは、マネックスグループの未来についてどのようにお考えですか?
槇原 何が起こっても不思議ではないこの時代、もはや未来を見通すことなど不可能です(笑)。しかし、どんな時代になろうと「金融」という機能は求められる。マネックスグループが掲げるヴィジョンには、金融を通して個人の生活を良くしたい、その方の人生をサポートしたい、という想いがコアにあります。そしていま、その金融がテクノロジーによって爆発的に変わり始めている。オンライントレード、暗号資産、トークン、そしてAIと、人と金融の関わり方がどんどん複雑になっており、オプションが増えるのは良いことではあるものの、金融に対する実践的な教育や、誰もが金融に容易にアクセスできるインターフェイスも含めて、お客さまをいかにサポートしていくかがこれからいっそう重要になるでしょう。
久能 予測できない未来に対して、不安だからと無理やりわかろうとするのが、最もやってはいけないこと。いまやノンリニアの世界なので、いったん起こった変化は加速度的、指数関数的に拡大し、それがいつ終わるかも見えない時代になっている。そうした変化に怯えず、平然と構えることが大切です。だから私は、あの清明さんの大物感がいいと思っているんです。彼女が醸し出す雰囲気が会社全体に浸透し、わからないことに平気で立ち向かえる企業になってほしいですね。


パラダイムシフトを起こすのはあるべき姿への人々の想い
槇原 いま久能さんがおっしゃったように、未来なんてわからないのだから、ヴィジョンに沿って一歩先を果敢に進んでいくことが重要ですね。ただ、我々が携わるのは規制業種なので、どうしても保守的になりがちです。マネックスグループも事業や組織が大きくなるにつれて、だんだん動きが鈍くなっている面もある。もちろんコンプライアンスは徹底しなければなりませんが、お上にお伺いを立てて良いアイデアが出た例はありません。未来に向けてはいったん規制など考慮せずにヴィジョンを掲げるべきで、これまでは松本さんのヴィジョンのもとで進んできましたが、そこに清明さんのヴィジョンも合わさることになり、より推進力を増すのではないでしょうか。
久能 きっとその先に、新しいパラダイムシフトが起こるのでしょうね。パラダイムシフトというのは、人々の「こうなってほしい」という想いが、実は大きな力になっています。最近、米国でも世の中の空気が変わってきていて、特にミレニアルより後の世代の人たちが、経済的なインパクトより「意味のあること」を大切にしたいとよく言っています。マネックスグループがもたらせる「意味のあること」とは、先ほど槇原さんがおっしゃった、金融教育や金融アクセス改善などを通してファイナンスを民主化し、個人のより良い生活をサポートしていくこと。その意味で、マネックスグループは社会全体を変えていくリーダーとなりうる企業だと思っています。
個人のポテンシャルを引き出すプラットフォームになってほしい
久能 これは個人的な見解なのですが、いま世界は行き詰まっているように感じています。国家も企業も個人も、停滞感や閉塞感に覆われている。そうした状況を打破するための最もシンプルな方法は、これまで舞台の中央にいなかった人たちに力を発揮してもらうこと。社会を変えるようなイノベーションというのは、得てしてマイノリティのアイデアから生まれているんですね。25年前は、まさに松本さん自身がそのマイノリティだったように思います。そしてこれからは清明さんが、まだまだ金融の恩恵を十分に受けていない女性や若者など、マイノリティの方々を表舞台に上げて彼ら彼女らのポテンシャルを引き出してほしい。清明さんが「みんなのマネックス」とうたっていらっしゃる通り、この会社が一人一人の力を大きくするプラットフォームになってほしいと思っています。
槇原 そのためにもDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)がいっそう大切になりますね。イノベーションを生み出すためには、いろんな経験を持った違うタイプの人間が一緒になることが重要。同質の人間ばかりだと画一的な結論しか出ませんし、アンコンシャスバイアスも働いてしまい、どんなに議論を重ねても盲点が生まれてしまいます。
久能 リニアに進化する世界であれば、過去に倣えばいいので、盲点が生じたところで大した危険はありません。しかし、わからない世界をどう生きていくかという話になると、新しい視点、新しい考え方を入れて盲点をなくさなければ致命的な事態を招きかねない。そのためにはマイノリティ側にいる人たちが、自分の考えを堂々と言えるエコシステムをつくることが大事。そのエコシステムの中でリーダーが決断し、そのリーダーの意思を信じてみんながフォローしていくという、そうした信頼関係のもとでマネックスグループが発展できれば理想ですね。
槇原 マネックスグループはDEIが根付いている企業であり、十分にそれを果たせる企業だと思っています。ボードメンバーはもとより、社員全員がフレキシビリティを持って未来に必要とされるものを他に先んじて追求し、それをイノベーションにつなげていくことで永続的に成長してほしいですね。
プロフィール 久能 祐子 Sachiko Kuno |