万代 惇史(マネックス証券)、山口 祐樹(マネックスグループ)、和田 晃一良(コインチェック)

UXで差別化を図る体験のデザインが企業価値に

ウェブサービスの核ともいえるUI/UX。マネックスグループの山口祐樹、マネックス証券の万代惇史、コインチェックの和田晃一良が、UI/UX設計の考え方や大事にしているポイントについてトークしました。

山口 今、オンライン証券は業界も成熟し、商品やサービスでの差別化が難しくなっています。UI/UXも均質化していると感じています。その点、仮想通貨取引所はまだUI/UXがバラバラなので見ていて興味深いですね。中でもコインチェックはデザインが洗練されていて、UI/UXの優位性という意味で抜きんでていると思います。

 

和田 仮想通貨取引所の場合、サービスを始める時点ではお客様がいないので、自由に設計できたんです。もちろん開発も全て自社でやりました。既存のお客様がいる場合、UI/UXの変更は難易度が高いですよね。お客様が慣れている操作に迷わないようにしないといけないし…。

 

山口 確かに、取引画面を修正すると、ある情報の掲載位置を左から右に変えるだけでたくさんの問い合わせが入ります。いつも直感的に使えるデザインであるべきですが、使用頻度が高いお客様は、サイトの使い勝手が多少悪いことよりも、慣れている画面が変わることによるストレスの方が大きいとなると、どうしても昔ながらの設計を引きずったまま増築に増築を重ねることになりがちだという課題がありますね。

 

和田 イノベーションのよくあるジレンマかもしれないですね。僕がコインチェックのUI/UXを作った時は、どんな人がターゲット層なのか、その人たちがどう使うのかを想像していました。ショッピングサイトなども参考にして、UI/UXがほかのウェブサービスと変わらず、分かりやすく使えるかどうかという観点で検討しました。

 

万代 開発のプロセスにも違いがありそうですよね。オンライン証券では、UI/UX以前に機能要件を不足なく洗い出して固めてから画面をつくることが多いと思うのですが、和田さんはどんなふうに進めていますか?

 

和田 僕が新しいものを作る時は、まず紙に画面を書くことから始めますね。

和田 晃一良(コインチェック)

「選ばなくていい」というこだわり

山口 和田さんは、飲み物は水しか飲まないんですよね。

 

和田 何を飲むか選ぶこと自体がコストだと感じるんです。「あまり選ばなくていい」ということにこだわりがありますね。

 

山口 コインチェックのUI/UXにはそういった「和田イズム」が現れている気がします。

 

万代 確かに、コインチェックのアプリには削りの美学がありますよね。

 

和田 僕の価値観がサービスに反映されているのかもしれないですね。「選択肢は少ないほうがいい」というポリシーでサービスを作っているので、無駄が削がれて、それが今のUI/UXにつながっているというのはあると思います。

山口 祐樹(マネックスグループ)、和田 晃一良(コインチェック)、万代 惇史(マネックス証券)

工夫の積み重ねが優れたプロダクトを生む

和田 僕はよくカスタマーサポートや法務の担当者と議論をします。例えば、注意事項などは必ず表示するというのが通説になっていますが「本当にこれがお客様にとって使いやすいのか?」と思う表示になっていることもあります。そういった場合には違う方法はないのか考えます。

 

山口 お客様を守るのが本質のはずなのに、気づかないうちに「置いておけばいい」「書いておけばいい」ということになりがちですよね。既存のウェブサービスは、思考停止になっている部分も多いのかもしれません。

 

和田 もちろん、絶対に削れない要素もあります。無駄をなくすといってもやりすぎはよくないので、バランス感覚が必要です。大事なのは、安易に妥協して情報量を増やさずに、UI/UXを少しでも良く出来ないかと工夫を積み重ねることだと思います。使い勝手のよいプロダクトは、その積み重ねでしか生み出せないのかもしれないですね。

 

万代 オンライン証券は取り扱う商品が増え、どこも情報量は増える一方です。もはや足し算で差別化するのが難しいからこそ、引き算の発想でUI/UXの均質化から抜け出すことを真剣に考えるべきかもしれません。