これからのマネックスグループを担う
みんなには、空気を読まず発言してほしい
創業25年目という節目の年に、マネックスグループは大きな転換点を迎えました。
松本大から清明祐子へCEOをバトンパスし、新体制がスタートしました。
マネックスグループの未来を、二人はどのように思い描いているのか、この機に語り合ってもらいました。
皆同じ価値観を共有しているから間違った方向には進まない
松本 今回、清明にCEOをサクセッションして、マネックスグループはまた、新たな歴史を刻むことになった。経営のスタイルは変わるかもしれないけど、私としては何の不安もない。なぜなら、清明も役員も社員も皆同じ価値観を共有しているから、誤った方向には進まないだろうと。
清明 いま松本さんがおっしゃった、社内で共有されている「価値観」とはいったい何なのでしょう?
松本 言語化すると、要は「間違ったことはしない」ということかな。根本的に人としてあるべき性格を備えているというか、仕事のパフォーマンス以上に、実はそれが一番大切なことだと思っている。
清明 私がこの会社って性格がいいなと感じるのは、他人に対して嫉妬したり、自分を誇示するような人がいないんですね。私はマネックスグループに入社して15年経ちますが、周りから足を引っ張られたような経験は一度もない。私たちの目的は理念を実現することで、お客さまに良いサービスを提供していくこと。みんなその方向を向いていて、理念の実現が最優先されているので、他人と比べて自分が優れているとか劣っているとか、誰も意識していない。そういう意味で企業理念が浸透している稀有な会社だと思いますね。
松本 企業理念というのは、ただ言葉にして掲げるだけでは根付かない。私も創業以来、例えばお客さまのことを軽んじたり、多様性を認めなかったり、理念からずれているような行為が見受けられれば決して許さず、その場で「何をやっているのか!」と指摘して、話し合ってきた。そうした積み重ねによって、社内に理念が浸み込んできたように思うね。
さらなる成長のために新規事業は重要
脈絡のないところから生まれる
清明 私は現実主義であり、明確なゴールを求める人間です。そして企業理念が、まさにそのゴールだと思っています。私はいまの企業理念が好きで、変えるつもりはありませんが、そこに辿り着くための道筋はいろいろある。松本さんをはじめ4 人で起こしたマネックスグループが、いまやグローバルに広がって1500 名の企業になりました。これからも成長を志向していく一方、ここまで規模が大きくなると組織化して生産性を高めていくことも重要。収益が上がらないと成長のための投資もできない。経営者としての私の最大の任務は、生産性や収益性を上げるために、人やお金などのリソースをどこにどう張るかを決めること。マネックスグループはまだまだ大きなポテンシャルを秘めており、リソースをうまく配分することでそれを引き出していきたいですね。
松本 清明は清明のやり方で新しいマネックスグループを創ってほしいし、私がこの業界で長年培ってきた知恵を活かせる場があれば、どんどん使ってほしい。
清明 松本さんには引き続き新規事業創出をリードしていただきたいです。新規事業は本当に大切で、放っておくとみんな守りに入ってしまう。同じことを繰り返すだけではビジネスは成長しないので、常に新しいことに挑戦していかなければならない。でも、既存のオペレーションを回している人に、新しいことを考えろといってもなかなか難しいのが実情ですね。
松本 そう、新規事業を考え出すのは、特異な資質が求められる。既存事業の延長線上で考えると、それはもう新規事業ではない。この前も、ある新規事業を清明に提案したんだけど、「それはマネックスグループとどのような関係があるのか」と問いただされた。結論からいえば、いまのマネックスグループと脈絡なんてない。でも、脈絡がないからこそ、いままでにない新しい価値を生み出せる。もちろん、それが社会にとって必要な事業であることが大前提だけれどもね。
ユニークな発想があれば会社がリスクを取って実現したい
清明 松本さんからその話を聞いて、確かにその通りだなと(笑)。でも、新規事業というのは誰にでも編み出せるものではないと思うんです。新規事業を考える力というのは、習得できるものなんでしょうか?
松本 新規事業の創出は帰納法的なアプローチであって、やり方を把握すれば誰でもできると思っている。そのために必要なのは、情報量の多さだけ。膨大な情報を摂取して、その中からイノベーションにつながりそうなものを見きわめて決断する。その情報が中途半端なまま意思決定しようとすると、まず失敗してしまう。
清明 それにプラスして、リスクが取れるかどうかも大切ですよね。せっかくイノベーションにつながるようなアイデアがあっても、リスクを恐れて実行に移さなければ何の価値もない。だから、経営としてリスクをコントロールしてあげることも私の役目だと思っています。ユニークな発想があれば会社がきちんとリスクを取って実現しますよと、そう社内に周知していきたい。尖っている人とか変わったセンスを持っている人も、当たり前のように受け入れられて、周りを気にせず自分のアイデアを発信できるような環境をつくっていきたいですね。
松本 新規事業を考えられる人材を発掘して育成していくことは、マネックスグループを永続的に成長させる上できわめて重要なテーマであり、私も責任を持って取り組んでいきたいと考えている。
従来の延長線でものを考えない社員が徐々に増えている
松本 清明がCEOに就いてから、社内の空気も少し変わってきたんじゃないかな。
清明 先日開催された社員総会の「未来フェス2023」も面白かったですよね。「生涯バランスシート」を考えるセッションで、個々人の資産と負債を考える機会があり、負債の方に「これまでの価値観にとらわれること」と回答した社員が何人もいた。先ほど松本さんがおっしゃったように、従来の延長線上では新しい世界に行けないと考える人が増えてきて、良い兆しを感じましたね。
松本 これからは、社内で私の存在感を小さくしていき、清明やみんなに成功してもらうことをサポートすることが使命だと思っている。一方で、社外での活動にも力を割きたくて、東京大学に私財を寄付して、日本の資本市場を活性化・活用して、日本を強くする、日本の生産性を上げる方法を研究する機関を立ち上げた。そうした取り組みを通して、ひいてはマネックスのお客さまである個人投資家のためになり、マネックスの広告塔としても役に立てればと。
清明 そうして松本さんが社外で影響力を発揮してくださるのは、マネックスグループにとってもありがたいことです。私は、これからの金融業界は日本における数少ない成長産業だと思っているんです。しかし現状では、各社がごく狭い市場でパイを奪い合い、勝った負けたという小さな競争を繰り広げている。私たち自身がさらに成長していくためにも、業界全体をさらに活性化していくことが重要であり、そのけん引役として松本さんに期待しています。
松本 私としては日本の資本市場を大いに盛り上げたいんだよね。株価が上がれば日本経済も活性化するし、日本企業の国際競争力も強くなるし、日本の国民の所得や資産を増やすこともできる。私は長年にわたって資本市場に関わり、資本市場を通してお客さまと密な関係を築き、信頼をいただいて当社はここまで大きく成長することができた。この間に私が得た利益を、この資本市場をさらに良くすることに還元したいと強く思っていて、マネックスグループの未来にも貢献できるんじゃないかと考えている。
一人一人が自分事としてマネックスグループを動かしていく
清明 これまで松本さんの強力なリーダーシップのもとで成長してきたこともあって、社内がどちらかというとフォロワー気質だったように感じています。そこから脱却して、みんなで一緒にこの会社を動かしていきたい。前から引っ張る人もいれば、後ろから押す人がいてもいい。適材適所で、年齢とか性別とか関係なく公平に機会が与えられ、誰でも自分からこの会社を動かしていいんだと思えるようにしたいですね。そのために、意欲や能力のある人材を積極的に抜てきし、会社に影響を与えられるポジションを任せるとか、私が社員に望んでいることを「見える化」して訴えられればとも考えています。
松本 私がマネックスグループのみんなに期待するのは「空気を読まない」こと。これからの時代で価値を発揮し続けるためには、それが最も大切だと思っている。もちろん、「空気を読まない」というのは、何も情報を摂取せず、自分の感覚だけで好き勝手に振る舞うことではない。しっかりと知識を養った上で、自分の考えが周囲の意見とまったく異なっていたとしても、そこは空気を読まずに勇気を持って発言してほしい。結局、自分の考えを持たずに大勢に流される人間が増えたときに、国家も会社も一気に駄目になってしまう。一人一人が信念を持って判断できる集団であり続けてほしいね。
清明 みんなそれぞれ社会に対して、お客さまに対して、あるいは一緒に仕事をしている仲間に対して想いを持っているはずで、一人一人がそれを堂々と表に出していけば、会社はおのずと良くなっていく。もし、私や松本さんが何を考えているのかを知りたければ、直接言ってくれればいくらでも話しますし、マネックスグループをこれからどうしたいかを自分事として捉えてほしい。そうして社員全員の想いを成長する力に変えて、もっと強い会社、もっと価値のある会社にしていきたいと思っています。