マネックス証券「オープンAPI」開発という挑戦 


はじめに:オープンAPIとは
 

マネックス証券が開発した「オープンAPI」は、お客様が普段使う外部サービスとマネックス証券のシステムを安全につなぎ、お客様にとってより便利な金融体験を現するための仕組みです。たとえば、家計簿アプリに自分のマネックス証券口座を登録すると、アプリ上で資産残高や保有銘柄が自動的に更新され、外部サービスから自らの資産状況を一目で確認できます。こうした日常の体験を可能にしているのが、このオープンAPIです。この仕組みを通じて、金融がより“身近で便利なもの”に変わりつつあります。しかし、マネックスがこの開発に挑んだ理由は、単なる技術革新のためではありません。そこには、「自分たちの未来を自分たちで創る」という文化への真の転換を目指した挑戦がありました。今回は、オープンAPIを主導したマネックス証券システム開発1部 第1プロダクトグループ マネジャー・法貴大輔にその歩みを聞きました。

気づきから生まれた転換点―“つながる発想”のはじまり
 

― まず、マネックス証券でオープンAPIを構築すべきだと考えた背景を教えてください。
 

法貴  私は、 2015年に入社して以降、証券基幹システムの内製化プロジェクトに携わっていました。当時の証券業界では外部の証券基幹システムの採用や外部委託が一般的でしたが、マネックス証券は証券基幹システムを内製化することを決め、将来のサービス開発にあたっても「自分たちで考え、自分たちでつくる」方向に舵を切ったタイミングでした。それは技術の選択であると同時に、“未来を自分たちで創る文化”への転換でもあったと思います。2017年、新基幹システムへの移行が一段落し、“次に何を創るか”というフェーズに入りました。 当時は新サービスが次々と立ち上がる中で、「注文」や「取引」といった共通の機能まで、それぞれ別々に開発している状況でした。同様の仕組みが重複し保守や改修の効率性が低く、スピードが出にくい状況だったのです。そんな中、 外部のテック企業と話す中で「システム連携は“オープンAPI”で」と当然のように語られていることに衝撃を受け、業界の外ではすでにAPI連携が前提となっていることを知りました。また、他社から業務提携の打診を受けても、オープンAPI技術について当社に十分な体制がなく、携の機会を逃したこともありました。「このままでは変化に取り残される」。そう感じた私は、2017年4月、共通API基盤の構築の議論したいと社内提案しました。

社員の写真

(マネックス証券株式会社 システム開発1部第1プロダクトグループ マネジャー 法貴大輔)

仲間と動かした社内―共創が生まれる土壌
 

― オープンAPIの構想は当初から社内で理解を得られていたのでしょうか?
 

法貴 APIは目に見えない技術なので、「それがあると何が良くなるのか?」を伝えるのが難しかったんです。そこでまずは社内で正しい理解を深めるため、外部専門家を招いた勉強会を開催し、社内チャットで情報発信を始めました。当時の経営企画部長にも参加してもらい、「APIを導入すると何ができるのか」について、部署を越えた議論が活発に行われました。当社には、部署の垣根を越えて意見を交わせるフラットな文化があります。この風土があったからこそ、オープンAPIのような新しいテーマでも自然に議論が広がり、理解者が増えていきました。構想から約1年、勉強会と対話を重ねた結果、「会社として挑戦すべきこと」という共通認識が生まれ、最終的に予算が承認されました。


― 開発を進める上で意識したことは何でしょうか?
 

法貴 最も大切なのは、“正しい知識を、正しい人から学ぶ”ことです。開発されるオープンAPIは、世の中の標準仕様に沿っていなければ意味がありません。基礎から技術を学び、専門家による定期的なレビューを受けながら進めました。設計の妥当性や国際的な標準仕様への適合も、外部有識者の知見を取り入れて確認し、革新的な技術を最良の形で当社に導入することができました。
 

― 最初に完成したオープンAPIはどのようなものだったのでしょうか?

法貴 最初に開発したのは、口座情報を外部サービスから安全に「見られる」ようにする仕組み(参照系API)でした。家計簿アプリ「マネーフォワード」との連携を皮切りに、マネックス証券の口座残高や取引状況をアプリ上で自動的に確認できるようになりました。これにより、お客様はマネックス証券のサイトにログインしなくても、日常的に資産状況を把握できるようになったのです。当時、証券会社でこうしたAPIを公開する事例はまだ少なく、マネックス証券の取り組みは業界に先駆けた一歩となりました。

広がる連携―オープンAPIが描く新戦略


― 参照系オープンAPIが実装された後、その他の連携はどのように広がっていったのですか?
 

法貴 オープンAPIの効果が社内外に伝わったため、それ以降は様々な種類のオープンAPIを開発しました。特に重要だったのは、発注機能のAPIでした。株式に始まり、その後は投資信託までが実装され、それぞれのAPIが、1株から株式投資ができる若年層向けスマホ投資アプリ「ferci」、そして幅広い米国株が取引できるアプリなど、社内の幅広いサービスを支えています。これらの共通API基盤は、新サービスの開発スピードと効率を大きく向上させ、マネックス証券のシステム開発における「自分たちで考え、自分たちでつくる」という思想を次の段階へと進化させるとなりました。
 

― こうした仕組みが、お客様の多様な投資スタイルに、迅速に応えられる力になったのですね。
 

法貴 マネーフォワードとの連携を皮切りに、イオン銀行、そしてNTTドコモとの業務提携の輪が拡大しました。イオン銀行とは、利便性を高めるために専用APIを開発し、お客様の利便性や安全性を守りながら、マネックス証券に簡単にアクセスいただけるようになっています。将来的には自動的に資金を移動させる「スイープ機能」の実現も視野に入れています。2025年7月に提供が開始されたNTTドコモの「d払い」ミニアプリはAPI基盤を活用して実装しています。今後のNTTドコモとの協業においても、2社間のサービスをつなぐ“橋渡し”として、この技術は重要となっていくでしょう。異業種との業務提携をスムーズに進められたのは、共通基盤であるオープンAPIが、強固なセキュリティで信頼を支えていたことも挙げられます。オープンAPIは、本人の同意のもとで安全なアクセス権を発行す「OAuth2.0」を採用しています。これにより外部サービスがユーザーのパスワードを扱う必要がなくなり、情報漏えいや不正利用のリスクを大幅に低減しています。また、先日、安全性の高いパスキー認証にも対応し、動的で快適、かつ安心な利用環境の実現が可能になりました。
(OAuth 2.0 は、ユーザーが自分のパスワードを外部サービスに渡すことなく、安全にアクセス権を与えるための認可の仕組み)


共に学び、共に創る―“APIエコノミー”の思想
 

― 開発の思想として、外部との共創を重視されていますね。

法貴 私は共創の思想をとても大切にしています。さまざまな企業がAPI公開を進める中、それぞれの企業はお客様のサービス体験のすべてを自前でまかなう必要はなくなっています。Uberが地図機能にGoogleマップを、決済機能にStripeを使うように、当社のサービスも各社の得意分野をAPIで組み合わせることにより、新しい価値が生み出せると考えています。我々は、専門家から新しい情報を学び、強いパートナーと協働する。そうした姿勢こそが、当社の技術を進化させてきました。オープンAPIの開発もまた、外部の専門家や提携企業との対話を通じて生まれた“共創の成果”なのです。


技術をつなぎ、未来をひらく
 

― 今後の展望を教えてください。
 

法貴 これからは、AIとAPIの融合が鍵になると考えています。ChatGPTやGeminiのようなAIに「自分の資産状況を教えて」と話しかけると、その裏でAPIが安全に情報を取得し、正確に答える―そんな時代がすぐそこまで来ています。海外ではすでにAIと注文機能を組み合わせたサービスが登場しており、日本でも間もなく一般的になるでしょう。マネックス証券としても、 “AIに使ってもらえるAPI”を意識しながら開発を進め、これからの金融体験をより自然で、より人に寄り添うものへと進化させていきたいと考えています。そして、そのためにもマネックス証券は共創を重んじながら、最新のサービスを考え続け、お客様へと届けていきたいと思います。

終わりに
 

オープンAPI技術は、マネックス証券の共創文化を醸成するとともに、後のパートナー企業との協業や新しい顧客体験の創出を支える、重要な技術基盤へと発展しました。マネックス証券では、テクノロジーの力で一人一人の暮らしや投資体験を、より身近で便利なものに変えていきます。金融を“わかりやすく、やさしく、開かれたもの”へ、そしてお客様の可能性を広げる― これからも、お客様とともに未来を見つめ、つながる力で未来の金融を創り続けていきます。
 

2025年11月14日
※社員の所属・役職、内容は取材当時のものです。