価値創造を支える「人」と「文化」
― マネックスが目指す、人が集まる組織のかたち

― まず、マネックスグループの企業風土についてお聞かせください。
 

山中 マネックスグループは創業当初から、「他者の価値観を尊重する」という企業文化を大切にしてきました。ただし、それは「多様性を重視しよう」と意識的に掲げてきたものではなく、創業間もない、固定観念や既成概念のようなレガシーを持たない自由な環境の中で自然に多様な価値観を受け入れる風土が形成されていった結果と言えます。

その象徴的な例が、過去のM&Aにおける考え方にも表れていると思います。一般的に、買収後に存続会社から役員や社員を送り、買い手側の考え方や文化を徐々に浸透させていくケースが多いのですが、マネックスでは、これまで買収した会社の企業風土や人事制度を変える働きかけは行ってきませんでした。それは買収した会社の価値を損ねないために、「彼らがこれまでやってきたことを尊重する」という考えを大切にしてきたからです。ビジネスの場面に限らず、人と人が向き合う日常的な関係性においても同様であり、結果として「多様性」という言葉をあえて意識する必要がないほど、その価値観が組織の中に根付いていたのではないかと感じます。

こうした積み重ねこそが、マネックスならではの文化形成の土台となっているのではないでしょうか。

また、女性管理職比率などの数値目標についても、当社はあえて具体的な目標を掲げていません。数値目標を掲げることで余計な力学が働き、これまで自然体で築いてきた良さを損なう可能性があると感じていたからです。性別や年齢、国籍等に関係なく優秀な人材が自由に活躍し、評価された結果に沿って組織が形成される状態が望ましいと考えます。現在は、女性活躍やペイギャップに関するデータ開示が求められる時代となっており、当社においては、性差による処遇の差はないと認識しています。一方で、女性社員の人数構成割合に対して、女性管理職の比率が低いことも認識しており、まだまだ出産や育児といった女性の負担が重くなりがちなライフイベントに対する取り組みに課題があると感じています。

(山中 卓也(マネックスグループ 執行役人事担当)

(山中 卓也(マネックスグループ 執行役人事担当)

理念を制度ではなく「対話」でつなぐ

― 人事制度については、これまで試行錯誤も多かったのではないでしょうか?
 

山中 マネックスグループとマネックス証券の組織の成長段階に合わせて、制度を少しずつアレンジしてきました。そして2023年に企業理念を実現するために必要な3つの行動指針「コアバリュー」を初めて言語化したことを受け、行動指針を体現する社員に求められる資質や素養およびスキルを評価軸に活用しています。

― 企業理念と評価制度の関係については、どう考えていますか?

 

山中 マネックスグループの企業理念は、創業者である松本が語っていた「水道の蛇口をひねれば水が出るように、お金や投資に関する情報も誰もが等しく手に取れるものにしたい」という思想が原点にあり、その考え方は、今も変わらず生きていると思っています。人事に異動した当初、企業理念にフォーカスした評価軸に制度改定することも考えましたが、人事評価制度変更から時間が経っていないこともあり見送りました。評価制度は形式ではなく、上司と部下が対話を通じて組織の方針や計画に沿ったストレッチな目標を設定し、試行錯誤を通して成長を確認するプロセスそのものが重要と考え、まずは対話の機会を持つことを重視して1on1ミーティングを制度設計しています。

― マネックスグループ独自の評価制度の特徴を教えてください。


山中 当社らしいと思うのは、「For the Team(チームパフォーマンス)」、つまりチーム全体のアウトプットを評価軸に据えている点です。社員一人ひとりがプロ意識をもってオーナーシップを発揮し、改善やチャレンジを繰り返し、新たな価値を提供するプロセスを通して、他者の価値観を尊重し、チームパフォーマンスを最大化する姿勢を評価しています。また、試行錯誤の過程で何度も失敗し、一時的に評価が低くなることがあったとしても、決してそのことだけでキャリア形成の足を引っ張られることはありません。実際、以前は評価が低かったメンバーが、今ではしっかり活躍しているという例も多くあります。失敗そのものではなく、改善、チャレンジしようとする姿勢を本気で評価する文化は、マネックスらしさだと思います。

主体性が、やりがいを生む

― 評価制度を変えた結果、どのような変化がみられましたか。

山中 マネックスグループとマネックス証券に限定した話になりますが、前向きな変化として、2021年から開始したエンゲージメントサーベイでようやく改善の兆しがみえました。特に課題視していたやりがいや達成感、成長機会、使命や目標の明示、成果承認、事業やサービスへの誇り、挑戦する風土などイノベーティブであることに関する項目のスコアが改善しました。これは対話の機会を増やしたことで、社員の学びをOJTを通して実践する経験学習のサイクルが少しずつ機能し始め、育成やキャリアについて考える機会が増えたことや、2023年10月に発表したNTTドコモとの業務提携の効果が実務面で表れ始めて、担当業務に手ごたえを感じた社員が多かったことによるものと理解しています。
また、今期からProductivity Awardを設定し、生産性や効率性を意識した目標を掲げていたところに、全社的なAI活用の動きが重なり、「思ったよりうまくできた」と感じる社員が増えたことも寄与していると思います。明らかにAI活用によって作業の効率化が進み、人でなければできない価値創造に時間を使えるようになってきています。

― 社員一人ひとりに、どんな姿勢を期待していますか?

 

山中 やりがいは、与えられるものではないと思っています。自分が責任感を持って取り組むことで、後からついてくるものです。権限がないことを理由にあきらめる人が少なからずいますが、それなら権限を持つ者を動かして自分がやりたいことを実現するアクションに切り替えればよいと思うのです。「自分の意思で仕上げる」という意識を持つことで、出会えるチャンスの数が増え、その結果も評価も大きく変わってくることを成功体験にしてもらいたいです。

人にも社会にも「選ばれる会社」を目指して

― 最後に、これからマネックスが目指す組織像を教えてください。

山中 社員一人ひとりが、自分の価値観を損ねることなく、それぞれの自己実現に向けてベストを尽くせる会社が理想で、当社グループが提供するサービスを利用したい、当社グループで働いてみたい、当社グループとの協業や提携を進めたいなど様々な局面で「選ばれる会社」でありたいです。そのために「挑戦を促し、やりがいや達成感を実感でき、自分らしさを発揮して活躍できる組織」を目指しています。人事の役割は、制度を通じて、成長支援やキャリア機会が明確で、経営の透明性が保たれ、意思決定の自由と裁量権および柔軟な働き方が認められる心理的安全性の高い組織を作ることで、チャレンジや失敗を許容・賞賛する風土や文化が根づく環境を整えることに他ならないと思っています。これらの「選ばれる会社」の要件は、イノベーション創出企業に求められる要件でもあり、当社グループにはすでにその素養や資質が十分に備わっていると感じています。当社グループ各社が連携していかに成長戦略を後押しする人事戦略を展開できるかなどまだまだ課題もありますが、社員一人ひとりがそれぞれの持ち場で価値創造の実現に向けて取り組んでくれることに疑いはありません。

2026年2月3日
※社員の所属・役職、内容は取材当時のものです。