「ART IN THE OFFICE」は、現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、当社を通じて新進気鋭の現代アートアーティストを支援する場づくりをしたいとの想いから、2008年より当社が社会貢献活動並びに社員啓発活動の一環として継続して実施しているプログラムです。2023年度は、134点の応募作品案の中から、Liisa(りさ)氏の「Liminal space」が受賞作品として選出されました。Liisa氏のプランは、コミュニケーションが必須である会議室において、多様な文化や言語の中で過ごした自身のバックグラウンドを起点にした、言語に頼らない表現によって、多様な解釈と新たな物語の提示を試みようとしている点が高く評価されました。また、プレスルーム全体に作品が展開されるダイナミックさと、作品に入り込むような没入感を体験できるプランに審査員一同関心が寄せられました。

 

審査員一同(左より:菊竹氏、塩見氏、パックン氏、岡村氏、松本)と選出された作品案
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審査員一同(左より:菊竹氏、塩見氏、パックン氏、岡村氏、松本)と選出された作品案

選出作品:「Liminal space」

ART IN THE OFFICE 2023選出作品の参考画像
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参考作品:「国際会館」/2022年/水性インク、スクリーントーン/500x660mm

※無断転載・複製を禁じます。

※「国際会館」は「ART IN THE OFFICE 2023」の受賞作品ではなく、Liisa氏の過去作品を今回の作品案の参考として掲載するものです。

受賞作品は2023年6月以降に制作予定です。

 

Liisa氏作品コンセプトおよびコメント:

Liminal space

私は、マンガの手法を使って、言語から解放された物語を経験してもらえるような作品を目指しています。マンガは何によってマンガたりえるのか。セリフや擬音が奪われた表現や物語は、マンガの存在意義を問うことになります。それが私の制作の原動力です。

今回は、扉が閉まった状態で外側から見た会議室の風景と、会議室の中からみた風景とその壁に展開される絵が相互に呼応して、ひとつの風景を生みだすような効果にチャレンジします。「Liminal space」とは、現実空間に生じる奇妙な異界です。見覚えがないのに、確かに来たと感じる場所、「懐かしさ」と「未知」の間に位置する空間、ほんのわずかなその裂け目=ズレを、物語のワンシーンとして鑑賞者に提示します。会議室はコミュニケーションが活性化するところです。その空間が、行き交う人々をゆるやかに結び、空想と現実をつなぐような「間=あわい」、あるいは、社員のみなさまや来訪者の方々が新しい物語を経験する場となるよう願っています。

リサ氏写真

Liisa氏 プロフィール

1999年ハンガリー生まれ(中国国籍)、2001年イタリアに移住し、2018年来日。2023年京都精華大学マンガ学部ストーリーマンガコース修了。2023年より東京藝術大学大学院修士課程デザイン専攻(第8研究室Draw)在籍。日常にあるものや場所に起因する記憶と、元の文脈から逸脱して生じる違和感やズレをテーマに、マンガの技法を用いて没入感のある表現を模索している。大学では、イラストを活用した空間とその体験についての研究を行っている。これまでの主な展覧会に、個展「祈願」(2022年、松栄堂薫習館、京都)、「ターナーアクリルガッシュ meets 漫画家」(2022年、ターナーギャラリー、東京)などがある。

 

審査員コメント(50音順)

東京都現代美術館学芸員 岡村恵子

岡村 恵子氏:東京都現代美術館 学芸員

ART IN THE OFFICEの公募は、応募資格の制約がなく開かれているため、世代や背景の異なる作家さんたちからの応募が多数ありました。その中から1件のみを選出しなくてはならない審査会は、選ぶ側にとっても非常に自由で、かつスリリングな場でした。印象に残った案には、必ずしも作家としてのキャリアや経験の長さに拠らない魅力が少なからずあり、審査自体、実りある貴重な機会となりました。

Liisaさんの案では、ご自身の強みでもあるマンガ的な表現を抑制し、敢えてキャラクターが不在の風景を作りだそうとしており、23歳の方が、そのような空間的な提案をしてきたというのが新鮮でした。作品の動機には、コミュニケーションの問題や生きづらさといった若い世代が感じる現代社会のネガティブな面があるとしても、作品空間に実際に人々が入り、新しい時間を未来に向けて過ごすことで、そこに何かポジティヴなものが生まれ得る可能性を感じました。

Yutaka Kikutake Gallery代表 菊竹 寛

菊竹 寛氏:Yutaka Kikutake Gallery 代表

審査会全体を通じて、多様な作品を見ることができました。いわゆる現代アートのフィールドでは見ることのできなかった方も多く、さまざまなアーティストがどのようなことを考えているかを知ることができる、貴重な機会でした。Liisaさんのような漫画の手法で活動するアーティストを選ぶことは、個人的にも、ART IN THE OFFICEにとっても挑戦的な部分があったかと思います。彼女がこのスペースをどのように展開するのか楽しみです。彼女の作品は、プライベートな風景を大事にしているように感じます。自身が見ているものからはじまり、それがグローバルな世界へと繋がっていきつつ、最終的には個人の心象が伝わってくるようです。マネックスで見られる今回の新作でも、そうしたものがダイナミックに出てくることを期待しています。

塩見有子氏(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長)
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Photo by Yukio Koshima

塩見 有子氏:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長

今回の審査会は、これまでのART IN THE OFFICEの中でも1、2を争う応募者数からの選出になりました。そのためか、応募者も個人ではなくグループであったり、絵画や写真だけではない様々な素材を扱う作家などの作風に広がりがあり、さらには、過去の作品をもとにさらにAIOでそれを展開させたいという意欲的な作品まで登場し、審査は難航しました。選出されたLiisaさんは、漫画やイラストを学びながら、漫画の制作技法の一つである「スクリーントーン」を空間全体に使った大胆な作風が印象的な提案でした。また、漫画で必要不可欠な言葉に疑問を抱き、言葉を超えた別の感覚に人々を招き入れようとする挑戦は、言葉でコミュニケーションする会議室でどのような化学反応を引き起こすか、今から楽しみです。

パックン氏:タレント

人生で初めて芸術作品を審査する立場に立ちました。プロに囲まれて、発言するのは恐縮しましたが、私の見る目が確かだったようです。なんと、プレゼン力があったのかは分かりませんが、私が一番最初に二重丸をつけた作品が受賞しました!この作品が選ばれて非常に嬉しいです。作品には、受賞者本人の個人的な物語が表現されていますが、純粋に絵そのものが可愛く、面白かった。また、オフィスを訪れた人が、作品が展示されている会議室の外から見た時に、近くから見てみたい、中に入って見てみたいと感じる作品であると思いました。後から知りましたが、受賞者はマネックスと同じ年に生まれたそうで。マネックスと同い年のアーティストを応援するのは、素晴らしい事ではないですか。この先もマネックスと一緒にLiisaさんがどう育っていくのか、楽しみにしています!

マネックスグループ 松本大画像

松本 大マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO

今回の審査は、とても多様性に富んでいました。応募数も多く、作風も作家の背景も様々でしたが、その中でも非常に多様性に富んだ背景を持つ作家が選ばれたと思っています。

マネックスは今年が満24年で、25年目にあたります。受賞者は1999年生まれの方で、実はマネックスが生まれた年と、同じ年生まれ。もちろん、このことが選出理由ではなく、偶然の結果ですが、マネックスと同じ年の方がdiverseな世界を生きて来られて、今このタイミングでスケール感のある制作を行う、ということに、何かセレンディピティのようなものを感じる。マネックスのオフィスで、ダイナミックで元気な新しい空間を作ってくれたら素晴らしいなと思っています。