ART IN THE OFFICE 2023 作品「Liminal space」

ART IN THE OFFICE 2023 作品「Liminal space」
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「ART IN THE OFFICE 2023」作品が展示されているプレスルーム(GALAXY)

※画像の無断転載・複製を禁じます。

「ART IN THE OFFICE」プログラムとは

「ART IN THE OFFICE」は、現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、当社を通じて現代アートの新進アーティストを支援する場づくりをしたいとの想いから、2008年より当社が社会貢献活動及び社員啓発活動の一環として継続して実施しているプログラムです。2023年度は、134の応募作品案の中から、Liisa 氏の「Liminal space」が受賞作品として選出されました。Liisa 氏のプランは、コミュニケーションが必須であるプレスルームにおいて、多様な文化や言語の中で過ごした自身のバックグラウンドを起点にした言語に頼らない表現によって、多様な解釈と新たな物語の提示を試みようとしている点が高く評価されました。また、プレスルーム全体に作品が展開されるダイナミックさと、水平線の延長のような境界に位置する場所を目指した、作品に入り込む没入感を体験できるプランに審査員一同関心が寄せられました。

Liisa氏作品画像
Liisa氏作品画像

作品: Liisa/「Liminal space」/2023/ シートに油性インク、アクリル、スクリーントーン/サイズ可変

 

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Liisa氏 コメント:

 

この世の日常だと思われている風景の隣に少し違うものを添え、その「むすび」(結び・産び)によって生じるズレを物語として提示することを重要視しています。「物語」は情報の一方通行ではなく、受け手が提示された出来事について再解釈する行為が必要であり、私はそれを「対話の場」として捉えます。会議室はまさに「対話の場」であり同じ性質を持ちます。そこを敢えて言葉のない表現で伝えることは何を意味するのでしょうか。私が描く物語には「完成」はなく、構成と再構成が絶え間なく続きます。伝えられる物語は受け手も協同で意味を生成し、ズレによって新しい解釈が生まれたり変異したりすることが、物語にとっての本質と考えます。滞在制作中は、社員の方々と交流する機会が常にありました。日々変容する作品に対して予期せぬ嬉しい感想や質問に対して、今まで言葉にできなかったことを伝えられて、自分自身の考えに改めて出会うことができ、非常に貴重な体験でした。滞在制作の最終日に元々人物がいない画面構成でしたが、最後にウサギを待っている男の子を一人描き加えました。空間と物語の幅を広げるためでもありますが、ワークショップで社員の方からお話を聞いて、物語の世界をもっと立体的な奥行きとリアリティーのあるものにしたいと、意欲が湧いたためです。ワークショップで社員のみなさんから聞いたエピソードの中で共通していたことが、「何かに恐れながらも期待し生きていること」だと感じ、それは「待つこと」だと考えました。「待つこと」とは、命令を受けながらも可能性が広がる空間のなかで将来を予期し、期待することであり、自己の外側に付き従う未来の訪れを待ち望むことです。そこには「期待」や「希(ねが)い」「祈り」が込められていて、それは果てしなく美しく続く、縛られることのない領域なのです。ワークショップで行った自分の経験を他の人が語ることと同様に、客観と主観が混ざり合い、没入感と疎遠感を同時に感じ取られるような、会議室のその先の、水平線の延長のような Liminal space (境界に位置する場所)を目指しました。

 

参考:濵田秀行『他者と共に「物語」を読むという行為 ―「焦点化」に着目した教室談話分析―』、2017年、風間書房

Liisa氏

Liisa氏 プロフィール

1999年ハンガリー生まれ(中国国籍)、2001年イタリアに移住し、2018年来日。 2023年京都精華大学マンガ学部ストーリーマンガコース修了。2023 年より東京藝術大学大学院修士課程デザイン専攻(第8研究室 Draw)在籍。日常にあるものや場所に起因する記憶と、元の文脈から逸脱して生じる違和感やズレをテーマに、マンガの技法を用いて没入感のある表現を模索している。大学では、イラストを活用した空間とその体験についての研究を行っている。これまでの主な展覧会に、個展「祈願」(2022年、松栄堂薫習館、京都)、「ターナーアクリルガッシュ meets 漫画家」(2022年、ターナーギャラリー、東京)などがある。「TOKYO MIDTOWN AWARD 2023」アートコンペファイナリストに選出され、2023年10月5日(木)より東京ミッドタウンにて展示予定、2024年10月に「HIGURE17-15cas」(東京)にて個展を開催予定。