2008年に当社が社会文化活動の一環として開始した「ART IN THE OFFICE」プログラムについて、当社の子会社であるマネックス証券が本年度も実施しておりますが、このたび、111点の応募作品案の中から、「ART IN THE OFFICE 2016」受賞アーティストとして、菅隆紀氏を選出しました。
なお、「ART IN THE OFFICE」プログラムは2010年よりマネックス証券の主催で開催しております。

選出作品:Painting on the Kimono

選出作品:Painting on the Kimono
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展示作品イメージ(素材:着物、ラッカー、木材など)
※展示作品イメージは、菅氏の完成作品イメージとして掲載するものです。受賞作品は2016年6月以降に制作予定です。

 

菅 隆紀氏作品コンセプトおよびコメント:
ある先住民族の祭事において、矛や壺を他の部族に贈る際、受け取った側はそれを目の前で豪快に破壊して見せたのち、組み立て直し、それをまた他の部族に贈るという儀式があります。また、鹿児島県の甑島(こしきしま)では、まるでご飯を食べるような感覚でお墓に出向き、その日の出来事を先祖と話す習慣があります。 一方、路地裏や公衆トイレなどといった洞窟的場所に引っ掻きキズや落書きをして自らの痕跡を残すという行為がみられますが、これは「生だけの世界」に対するささやかな破壊的行動とみることもできます。そして、これらが、限られた情報からの脱却や新たな何かを得たいという衝動が隠されているのではないかと考えた時、美術家の村上三郎による紙破りパフォーマンスやルーチョ・フォンタナのキャンバスを切り裂いて違う扉を開くといった試みと共通の思いを感じています。
これらをヒントに、今回の作品では、祖母の着物のほかに旅先で出会った器や盾、矛などの民族学的なものを用い、現代における衝動とその行為について考えてみたいと思います。
今回このような機会に恵まれとても嬉しく思います。また、人と人が関係を作る場所で制作し展示できるということで、この機会に自分自身も成長できればと思います。

菅 隆紀(すが たかのり)氏

菅 隆紀(すが たかのり)氏プロフィール
1985年長崎県生まれ。2009年愛知県立芸術大学卒業。人間の根源にある行為や欲求をテーマに、絵画的技法を用いて表現している。2014年、オーストラリアを放浪中にアボリジニ文化に影響を受け、出会った老人の古民家にて滞在制作を行う。これまでに、KOSHIKI ART EXHIBITION 2012(2012年、鹿児島)、ドリッピンクプロジェクト(2013年、京都府庁旧本館 Musee Acta)、駒込倉庫(2015年、コミッションワーク)などで作品を発表している。
Takanori Sugaウェブサイト http://takanorisuga.com/

審査員コメント

塩見 有子氏(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長)
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撮影:越間有紀子

塩見 有子氏(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長)
近年のなかでもまれに見る難しい審査でした。プレスルームでの実際の展示を見てみたいと思わせる作品がいくつかあり、混戦を極めました。空間の特徴を考慮して意外な展示方法を提案したり、素材や制作方法に特徴があったりと多様な表現が見られたのも、難しさの理由のひとつだったと思います。
受賞作品は、壁全体を使って複雑なイメージが垂れ下がるように展開することに、これまでのART IN THE OFFICEにない提案だと感じました。祖母の着物を素材のひとつとし、日常的かつ個人的な「もの」が作品の一部となるのは、今回初めてだと思います。そこにグラフィティを組み合わせた表現は、オフィスのプレスルームに強烈なインパクトを与えてくれるものと期待しています。

成毛 眞氏(HONZ代表 兼 株式会社インスパイア取締役ファウンダー)
私の中でのマネックスは「金融」というよりも「ネット」企業というイメージが強くあります。今回受賞した「Painting on the Kimono」は複雑性を兼ね備えていて、私のもつ「ネット」のイメージと重なりました。また、受賞アーティストの菅さんが試行錯誤、工夫をこらして創りあげたテクニックが見られる、非常にプロフェッショナルな精神を感じます。どのような作品が仕上がるのか、プレスルームの変化が楽しみです。
現代アートの審査会には今回が初めての参加でした。平面作品である、企業理念を理解して発展させなければいけない等、様々な制約がある中で個性を出すことは並大抵のことではないことを感じました。今後のアート界のさらなるチャレンジを期待しています。

野村 しのぶ氏(東京オペラシティアートギャラリー キュレーター)
いいなと思う作品が多くあった一方で、全体としては大人しい印象を受けました。そのような中で、菅さんの作品は着物やグラフィティといった一見ステレオタイプに見えがちな要素をもちながら、それに依存しない強さが際立っていて、オフィスやアートといった枠組みすら超える新しい表現を見せてくれる予感がしました。
異なる背景を持った方との審査会は大変刺激的で、アートが社会で共有可能なものになるための課題がよく見えました。アーティストも企画者も、自信を持って「いいでしょう?」と言えるように、独りよがりでなく、そしてこびることなく、制作と伝達に励みたいと思いました。

松本 大(マネックス証券代表取締役会長CEO)
今年で9回目を迎える「ART IN THE OFFICE」は、各年毎に応募作品の雰囲気が異なっているのが印象的です。今年は、強い個性やエネルギーが溢れ出ているような良い意味でハチャメチャな作品案が少し減ったようにも感じましたが、例年よりも更にレベルの高い応募作品が多かったように思います。大変密度が濃く、様々な「縁」があり楽しい審査会でした。
今回は、これまでこのプログラムで使われたことのない素材で制作され、プレスルームを彩ることになります。無機質な「会議室」という空間の中に、人が実際に着ていた熱のこもった「着物」という素材。今までの作品とはまた一つ違う雰囲気の作品が想像されます。新しい「ART IN THE OFFICE」がどのような色を魅せてくれるのか。今から期待しています。

藪前 知子氏(東京都現代美術館学芸員)
応募案が多様でルーツも手芸やファインアートまでと様々。全国からの応募があり、プログラムが周知されているのだという印象を受けました。
菅さんは、これまで、ストリートアートの文脈から新しい絵画の様式を生み出している作家さんとして印象に残っていましたが、今回は、コンセプチュアルなひろがりのある作品を屋内に作るという点で、新しいチャレンジだと思います。完成の状態が想像できる、あるいはきれいにまとまっている応募作品が多い中で、成功するかどうかは未知数、というところも含めて、先進性やチャレンジを戦略とする現代美術の社会的な意義を示すことができると考えました。完成を楽しみにしたいと思います。