「ART IN THE OFFICE」は、現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、当社を通じて新進気鋭の現代アートアーティストを支援する場づくりをしたいとの想いから、2008年より当社が社会貢献活動並びに社員啓発活動の一環として継続して実施しているプログラムです。2022年度は、87の応募作品案の中から、円形のプレスルームの中心に、実際には存在しない「噴水」をイメージし、そこから新たな発想や考えが溢れ出し、新しい議論が生まれ、更新されるというアイデアをもとに、半立体的な絵画を組み合わせ、空間を捉えた抽象表現が高く評価され、平松 可南子氏の作品「Fountain seen from the inside room」が受賞作品として選出されました。

 

審査員一同(左より:松本、星氏、染谷氏、田中氏、塩見氏)と選出された作品案
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審査員一同(左より:松本、星氏、染谷氏、田中氏、塩見氏)と選出された作品案

選出作品:「Fountain seen from the inside room」

選出作品:上から見た噴水
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参考作品:上から見た噴水/2022年/キャンバスに油彩、チャコールほか/2000×2000×50mm

※無断転載・複製を禁じます。

※「上から見た噴水」は「ART IN THE OFFICE 2022」の受賞作品ではなく、平松氏の過去作品を今回の作品案の参考として掲載するものです。

受賞作品は2022年6月以降に制作予定です。

 

平松氏作品コンセプトおよびコメント:

「Fountain seen from the inside room」

「噴水」というモチーフは、噴出された水飛沫の運動の集合体として変化し続けていることから、その都度変容を繰り返す様が明快に表れています。また、絵画においても、一度描いたものと全く同じ絵を描くことは難しく、そのような差異の集積と言えます。更に、それが展示される空間も、鑑賞者とのあいだの変容は常に起き続けています。今回作品を展示する半円型の会議室の構造は、噴水とも似ています。そこでは一人一人の多様な声が、水のように干渉しあっています。そして、毎回異なる意見のぶつかりや混ざり合いが起こり、互いに反応しあい、毎回違う表情を見せます。私は、この作品展示によって、噴水が見せる表情の変化のように、変化に富んだ場所になることを期待しています。 通常、展覧会においては鑑賞者が一度しか作品と出合わないことも多いですが、今回の展示は一年間という長い期間で、何度も作品と向き合える環境です。そのような状況の鑑賞は、私にとっても大変貴重だと思っています。

平松可南子氏

平松 可南子氏 プロフィール

1997年大阪府生まれ。2022年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画研究室修了。ペインティングやインスタレーションを表現手段とし、鑑賞の中で変容する経験を捉え直す試みを行っている。これまでの主な展覧会に、「Ghost of Peach」(2021年、とりときハウスギャラリー、東京)、「Innocent-P-」(2019年、京都国際会館、京都)、「Artist’s Tideland KYOTO」(2019年、伊勢丹新宿、東京)などがある。2020年「京都造形芸術大学卒業展」奨励賞受賞。

 

審査員コメント(50音順)

塩見 有子氏:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長
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Photo by Yukio Koshima

塩見 有子氏:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長

アーティストにとって渡航や移動制限があり、制作や発表の環境が激変して3年目となる今回、コロナ禍で深めていたアイディアや実践をアウトプットするような作品、あるいは、手仕事や細かな時間のかかる作業から、不確かな世の中を捉えようとする作品が多かったのが印象的でした。平松さんの作品は、平面や立体のなかで、色や線が動き続けながら重なり合い、循環を感じさせます。ドローイングが持つ瑞々しさを空間に立ち上がらせるような新鮮さもあり、抽象の面白さをプレスルームで味わいたいと思いました。楽しみにしています!

染谷 卓郎氏:Takuro Someya Contemporary Art 代表

審査会では、アーティストの皆さんのさまざまな提案に触れて、その特徴を見出していく過程が、私自身とても勉強になりました。今回受賞された平松さんのプランは、ご自身のこれまでの取り組みとART IN THE OFFICEへの繋ぎ方がまず印象深く、また作品にあらわれている抽象からは、制作へ向かう実直さや自信も感じました。そこにはアートとテクノロジーの発達がもたらしている、見逃してはいけない新しさがあるような気がしています。アーティストと社員の皆さんのこの交流が、お互いの新しい感覚を無意識にも刺激し合うことを期待しています。
 

塩見有子氏(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長)

田中 みゆき氏:キュレーター / プロデューサー

コロナ禍以降、「見えないもの」を扱う作品を目にする機会が増えた実感がありましたが、今回の審査会では、さらにそれに対し触覚的にアプローチする作品が印象に残りました。平松さんの作品は直接触覚を扱っている訳ではありませんが、明確な空間構成のビジョンを持って会議室を「噴水」と見立て、平面作品を鑑賞する際に前提となる正面性に揺さぶりをかけています。広い意味で、鑑賞する人の身体性を含んだ触覚的な作品と言えるかもしれません。平松さんの密やかな企みがその空間で行われる会議のあり方にも徐々に影響を及ぼし、小さな声にも耳を澄ませるような対話が行われる場所になればと期待しています。

星 賢人氏:株式会社JobRainbow 代表取締役CEO

アートに触れたり応援したりする機会はこれまでもありましたが、審査員として選考に携わるのは初めてでした。絵画の知識や審美眼がある方々が集まると、選出される作品も似通うのではないかと思っていましたが、多様な作品が候補に挙がっており、刺激的でした。私自身も他の審査員の方々のコメントを聞いている中で、気に留めていなかった作品も、改めてプランを読み直して引き込まれるという経験をし、アートはコミュニケーションを生むものだと改めて感じました。選出された作品が、ガラス張りの円形の会議室の中でどのように制作されるのか、想像ができないので完成が大変待ち遠しいです。

結城 加代子氏:KAYOKOYUKI オーナーディレクター

松本 大氏:マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO

今年は3年ぶりに対面で審査会を開催しました。やはり実際に展示されるオフィスの会議室で、審査員全員集まって発言には出ない雰囲気も感じながらの議論は、審査会の醍醐味であるように思いました。15回目となった今回は、応募作品の幅が広がった印象を受けました。世相的にも多様なものを受けいれる土壌が広がっているからでしょうか。今回選ばれたプランは、見た瞬間に「あ、綺麗でいいな!」と感じる作品でしたが、じっくり紐解くと立体的で多面的で、多様で動的な複雑な要素があります。これも社会を反映しているのかも知れません。社会の「今」に影響を受けるAIOらしい審査結果になったと感じています。